2006年10月31日

折り紙

ふと思い立って『創作』なんてカテゴリーを作ったけど、そんなに更新しないこと請け合いですね。
ま、生暖かい視線で見つめてあげてください。

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私達は木製のテーブルを挟み向かい合っていた。
目の前に座る少年は私達二人と目をあわすこともなく、しきりに爪をいじっている。

「爪をいじりたがるなんて、女の子みたいだね。」

私の右側に座る私の友人は、笑顔で少年にそう言った。


ちらりと友人を見上げた少年だったが、直ぐに視線を手に落とし、どうやら詰まっている垢を削ぎ落とそうとしているらしかった。

「退屈じゃないかい?」

返事がない。

「ただの屍のようだ。」

ジョークが少年に通じたのかはわからないが、少年は視線を友人に当て、今度は私にも向ける。

「初めまして。
 私は3学期から君の担任の先生をするらしい、元木。
 左にいる胡散臭いおじさんは私の友人で、山崎。」

私が初めましてを言う前に、少年は左足の膝を抱えて俯いた。
細い足が黄色い蛍光灯の光を浴び、なんとも脆そうな佇まいで、私は胸を痛めた。
小学6年生。
中学受験の競争中にイジメにあって、それが元で引籠もりをはじめてしまった。
そのイジメの原因を作り出したのが、生徒ではなく心ない担任だというから呆れてしまう。
競争からは抜け出せたので、健康的な生活は送れているのだろうが、これでは卒業できない。何とかして少年を学校に連れ戻せ。
それが少年の通う学校の校長からの指令だった。

「もう、一人でゲームするのにも飽きたことじゃないかと思って迎えに来たんだ。」

元木は揺らがない笑顔で少年に語りかける。
いらない、と呟く少年は声変わりの途中らしかった。

「親指、痛いだろう。
 ゲームダコ、出来てるじゃないか。」

見ると確かに親指には奇妙なタコが出来ており、爪をいじる邪魔をしているようにも見えた。

「だから、今日は別の遊びをしよう。」

返事がない。

「ただの屍のようだ。
 しかし屍ならば、しかるべき施設に連行せねばならない。
 君がもし我々と遊ばないのなら、君は施設へ連行されてしまうよ。」

え、と少年は驚いた表情で元木を見つめる。
元木は目を逸らさず言った。

「校長先生と、お母さんから許可は貰っている。
 もう施設の予約も取った。
 後は君が我々と遊ぶか否か。
 それに君の未来はかかっている。」

ちなみに、と元木は付け足した。

「施設にはテレビゲームや携帯ゲームの類はないから、君はお絵かきでもして遊ぶ以外にない。」

どうかな。

元木は少年に相変わらず笑顔を向けつつ、断定的に訊ねた。

こんな風に言われて、少年は首を縦に振る以外なかったのだ。

*   *   *


「まずはこれだ。」

元木は嬉々とした表情で、折り紙を取り出した。

「奴さんは作れるかい?」

元木は少年の返事を待たず、勝手に作り始めている。

「どうせできないだろう。
 折り紙は女の子のするものだと決め付けている目をしてるからね。
 さあ出来た。」

元木が作った奴さんは、ライトグリーンの袴をはいており、可愛らしい目をしている。

「これが君だ。
 さ。コレが君だと思って好きなだけ遊ぶんだ。
 欲しいものがあるなら、山崎に言ってくれれば良い。
 彼は折り紙選手権チャンピオンに僅差で負けた男だからね。」

人が気にしていることをさらりと言ってのけながら、元木は私の肩を叩いた。
少年はマジマジと奴さんを眺め、そして右手部分を股間にあてがってこすり始めた。
早くしたりゆっくりしたりしながら、元木の目の前で少年は奴さんの股間を卑猥にいじくるまねをした。

「自慰ゴッコ。」

ぼそりと少年は言った。
元木は動じるでもなく

「素晴らしい!!
 奴さんで自慰をしてくれる少年を、私は未だ嘗て見たことがない!!
 君は私に自分の行為を見せてくれているのだね!!!!」

と手を叩いて見せた。
少年は少しむっとした様子で手を止め、「服。」と私に言った。

私は表に緑の蛸唐草模様、裏に朱色の矢が描かれた折り紙を使って少年奴に服を作ってやった。
ベストやコート、紺色を消しゴムがけして古さを出したビンテージのジーンズなども作った。

少年はそれを眺めながら、時折息をついている。
初めて見る高等な折り紙に、感動でもしていてくれているのなら嬉しいのだが。

それから少年は次々に欲しいものを言ってきた。
家、ピアノ、車、ジェット機、仕舞いには遊園地だなどと言い始め、私は手を動かしっぱなしになってしまった。

「ジェットコースターも作れるんだな、君は。」

元木が初めて見たとでも言わんばかりに感心して見せた。

「しかも二人乗りだ。素晴らしいね。」

元木はニコニコしながら少年に言った。

「さぁ乗りたまえ。
 普段はカップルで乗る乗り物を占領だ。
 中々良い身分だね。」

少年はジェットコースターが稼動するのが面白いらしく、ずいぶんと車両をいじっていた。
あまり強く引くと壊れるのではないかと内心ひやりとしたが、どうやら無事だったらしかった。

「この机の上も、立派な大都市になったね。
 ここで暮らしていけば、幸せ間違いなしだ。」

君は、と元木は続ける。

「ここで暮らしたいかい?」

少年は、少しだけ考えて、首を振った。

「どうして?」

躊躇うような口をして、少年は思い切ったように口を開いた。

「…もだち、いな…。」
「ん?」
「ともだちも、欲しい。」

見れば少年は、目に涙を溜めながら私に言った。

「これ、みんなもきっと見たい。」
「だと嬉しいね。」

それじゃぁ、と元木は言った。

「学校に行ってみようか。
 もしかしたらこの胡散臭いオッサンの芸術を、クラスの皆と分かち合えるかもしれない。
 この町より素晴らしい生活が、きっとあるだろうよ。」


この晩、私達は一緒に夕食をとった。
少年が笑いながら食事するのが久しぶりらしく、母親はマスカラが滲むほどむせび泣いていた。


どんなに素敵なものが揃っていても
足りないものがあるはずなんだ。
ものだけじゃ、駄目なんだ。
posted by み〜ほ at 23:51| 兵庫 ☀| Comment(0) | 創作 | 更新情報をチェックする
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