2006年12月07日

別れ話

「絶対嫌。」

ミカはそう言いきると、テレビに向き直った。

「何がそんなに嫌なんだよ。」
「趣味じゃないのよ。嫌なもんは嫌なの。
 もう、しつこいなぁ。」
「別に良いじゃないか。
 たった一日、いや数時間のことだろ?
 我慢してくれよ。
 オレ、夢だったんだから。」
「アンタの夢なんてどうでも良いわよ!!」

飛んできた枕に押し倒されて、オレは情けなくベッドに倒れこんだ。

「数時間だから我慢しろっていうの?
 過ぎたら私の苦痛は消えるとでも?
 バカ言わないでよ!!
 アンタは数時間で終わるからってレイプする犯人を許せるとでも言うの!!??

誤解しないでいただきたい。
オレは別にミカに怪しいことを強要しているわけではない。
唯一つ、彼女にお願いしただけだ。

結婚式でウエディングドレスを着て欲しい、と。

「何でドレス着てくれのお願いがレイプなんだよ!!」
「どっちも嫌がることを強要してるからよ!!」
「ドレスは普通喜んで着るものだろ。全然違うよ。」
「私は両方嫌なのよ。他の人と比べることには意味がないの!!」

埒が明かない。

「いいじゃないか。
 ミカには絶対白のウエディングドレスが似合うって!!
 ほら!!この幼稚園の時の写真☆」

そこにはミカが白い天使のようなドレスを着た姿が映っている。
アルバムを出してきて見せたが、ミカの逆鱗に触れたようだった。

「これが一番キライな写真だって!!!
 わかってて言ってるの!!??
 最っ低!!」

そうなのだ。
ミカのこの写真。
なんともいえない仏頂面で映っている。

理由は簡単。
このドレスを、後で同じ組の男の子に散々にバカにされたからだ。

子どもってそういうもんなんだ。
可愛い女の子を傷付けたくなるもんなのだ。
そうやって自分の言葉で傷つくって事は、自分を嫌ってない証拠だと、本能的にわかっているのだ。
多分。

「だから!!
 結婚式でウエディングドレス着るくらいならあんたと別れる!!!!!!!!!」

そんなわけで、俺達の結婚式は、白無垢を着たミカと袴を着た俺と言う、俺の夢とはかけ離れた衣装で行われたのである。

*     *     *


「ユリちゃん、綺麗ね。」

オレの隣で呟くミカは、涙ぐみながら、俺に言った。
オレは頷く。
ユリは、オレとミカの間の2人目の子ども。
1男1女に恵まれた俺達は今、結婚式で娘の華やかな姿を見つめている。

涙で霞んで、上手く見えやしない娘の顔を、オレは眺める。

「綺麗だな。」

ユリは、ミカに似ている。
若い頃のミカも、あんな風にどこかはにかんだような、ひねたような笑い方をしていた。
ユリにミカを重ねる。

「綺麗だ。」

オレは再び呟いた。
白いドレスで身を包んだユリ。
ミカのとき果せなかった夢が、今、目の前で繰り広げられている。

「綺麗ね。」

ミカも微笑んでいた。

*     *     *


「おめでとう、ユリちゃん。」
「ありがとう、お母さん。」

妻と娘は、幸せそうに見詰め合っている。
最後の一時。
そう思わせるほど、今の娘は幸せではちきれんばかりだ。
白いドレスが、甘い感傷を抱かせる。

「綺麗よ。
 ユリちゃんが、お母さん羨ましい。
 こんなに綺麗なんてね。」

再び鼻を赤らめて掠れた声をだすミカ。
そして言った。

「お父さんは、お母さんにウエディングドレスなんて、着せてくれなかったから。」






















…。















ナヌ?




















「白無垢が夢だったんだ何て言っちゃって。
 だからお母さん、ユリちゃんで自分の夢を叶えた気分よ。
 ウエディングドレスの夢。」

























な。
何だって?













「良かったわね、ユリちゃん。
 ユリちゃんは、ユリちゃんを幸せにしてくれる人を手に入れたんだわ。」

















お母さんみたいな男の捜し方しちゃ駄目よ。
もう、いらないんですけど、ママ(笑)。

そんな母娘の会話を遠くで聞きながら、俺は思った。





嗚呼神様。
オンナの記憶って、
どうしてこう自分に都合が良いんだ。
posted by み〜ほ at 23:05| 兵庫 ☁| Comment(0) | 創作 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。